熊本で育ち、全国・世界で活躍している人がいます。
熊本で暮らし、日々活動に励んでいる人がいます。
熊本を愛し、このまちのこれからを真剣に考えている人がいます。
彼らは何を思い、どんな日々を送っているのでしょうか。
そんな彼らにフォーカスした『熊本の未来を担うクリエイター』。
第4回は株式会社映gent Ro.man代表取締役、映像クリエイターの中川典彌さんです。
OMOIDE クリエイター
企業や自治体のPVを中心に、数多くの映像作品を手掛けている中川さん。2019年の映像クリエイターデビュー以降、その感性と並々ならぬ熱量で、ダイナミックかつ美しい映像を世に送り出してきました。
熊本県立劇場 40周年記念動画
「玉名大俵まつり」PV
熊本市政令指定都市移行10周年記念スペシャルムービー
ドローンや最新技術を駆使した迫力ある描写も印象的ですが、見る人の琴線に触れるストーリーであることが何よりの特徴。そんな作品を生み出す中川さんは、自らを「OMOIDEクリエイター」と称します。
「映像の可能性ってすごいと思うんです。それは情報発信に長けているとか技術の進歩が著しいとか、そういう話ではありません。映像に残すことを言い訳(きっかけ)に、少し気取ってみたり普段口にしないことを素直に話せたりする。そしてその映像を見返し人と共有することで、その時間もかけがえのない思い出になる。本当にいい映像は、人生を変える力があると信じています。たとえば誰もが写真や動画を撮影できる時代になりましたが、それらを見返す機会はあまり多くないのではないでしょうか。記録ではなく、思い出にする。だから私は映像クリエイターであり、OMOIDE クリエイターでありたいと思うのです」
原点は、祖父へのビデオレター
優秀な大工であり、人として尊敬する存在だったおじいさんの米寿。中川さんは孫を代表して、おじいさんの半生を辿ったスライドショーと従兄弟たちからのビデオメッセージを一本の動画にまとめました。これが、映像クリエイター中川さんの原点です。親戚みんなで鑑賞して感涙したそのビデオレターは、一年後に中川さん自身を奮い立たせることになります。
「7年勤めた会社を退職した日、その足でじいちゃんに会いに行ったのが最期の別れとなりました。数日後、他界の連絡を受けて見返したのが、あの動画。その中で語っていた“じいちゃんのように、人に喜んでもらえるものをつくれる人間になりたいです”という自分の言葉に、はっとしました。今の自分は全然ちがうと。それと同時に、じいちゃんに宛てたはずのメッセージが時を経て自分に返ってきたことが衝撃で、こういう仕事がしたいと思ったんです。私がビデオレターを見返したことで人生が変わったように、誰かの人生の分岐点づくりをしたい。そんな想いから、映像制作をはじめました」
作品を一番届けたい人
映像の世界に飛び込んだ中川さんは、企画、撮影、編集のすべてを完全独学で習得。「新しい案件には必ず、今自分ができない要素を入れて追い込みます」と語るように、常に前のめりの姿勢でスキルアップを図ってきたそう。前職はIT企業で人間ドックの総合自動判定システムを開発するプロジェクトを立ち上げ、執行役員も兼務していた中川さん。現在とはまったく畑違いだった当時の経験が、意外な形で活きていると言います。
「どんなクライアントでもどんな映像でも最も大切にしているのは、依頼主の心に届けること。特に企業PVは、それを強く意識しています。前職でつらかったのが、周りとの意識のギャップだったので、社内で共通意識を持つこと(インナーブランディング)の重要性は、よくわかっているつもりです。だからPVにはできるだけ、エキストラではなく本当の社員さんたちを起用しています。完成した映像を見て社長さんが涙し、社員さんが自分の仕事に誇りを持てる。そんな映像に仕上がっていれば、自ずと取引先や就活生にも響くと思っています」
嘘にならない程度に、着飾ったり背伸びしたりする。それが許されるのが映像の醍醐味であり、そこに映る姿が青写真となって、また新たなエネルギーにつながるのかもしれません。
シナジーシステム株式会社PV
MIZUKAMI VERTICAL BOOST(水上村復興ラン)
登録有形文化財にある「OMOIDE THEATER」
中央区練兵町にある早野ビルは、大正時代に建てられた熊本最古の貸ビルと言われています。国指定登録有形文化財にも指定されている、趣ある建物。ここに、“映像を観る”という思い出をつくる場所として中川さんが手がけた、特別な映画館「OMOIDE THEATER」はあります。基本的にクライアントへのお披露目も、この映画館で上映会を行うのだとか。先日は義理のご両親の還暦お祝いムービーを家族で鑑賞されたそう。大切な人を呼んで、映像を見るためだけのちょっと贅沢な空間。たくさんの感動の瞬間がここから生まれています。
非日常空間「Roman Cafe&Bar」
2022年春、同ビル3階に新たにオープンしたのが「Roman Cafe&Bar」。OMOIDEクリエイター・中川さんがプロデュースするお店です。映像でも空間でも、時間(とき)を演出したいという想いは同じ。ここでは非日常空間を提供することで、かけがえのない思い出をつくる背中を押してくれます。プロの手は借りずに、すべて自分たちの手作業でつくり上げたという店内の一角には、なんとラジオブースが。何気ない会話を録音し、思い出として残すことができます。ときには、アーティストのライブが行われることも。少し不思議な異空間にはゆったりとした時間が流れており、訪れる人々の心を解いてくれそうです。
「この非日常空間は、いろんな使い方ができると思います。たとえばこのラジオブースでプロポーズをしたら、この店が思い出の場所になる。1年後、5年後、10年後も食事をしたりOMOIDE THEATERでサプライズムービーを流したりして、記念日を祝うことができるんです。この店が、そんなきっかけになったら嬉しいです」
店内に漂ってきたのは、カレーのいい香り。ほかにも日替わりで手作りケーキ、上天草の人気カフェ『麻こころ茶屋』のドーナッツなどが用意されています。(メニューやオープン情報はInstagramで随時発信中。予約可。)
カウンターに立つのは、映gent Ro.manスタッフ・中村勇人さん。カメラマンを志し中川さんのもとで勉強する傍ら、お酒や料理の提供も行う彼を、中川さんはどう見ているのでしょうか。
「勇人くんは写真や動画を学びたいとうちに来たけれど、もしかしたらそれにこだわる必要はないのかもしれない。カウンターに立ったらバーテンダーになるし、カレーもつくる。彼はコミュニケーションを取りながら、何かをつくることが好きなんだと思います。自分もそうしてきたように、やりたいことをやってほしい。するといずれ、すべてのことが交わり、自分だけのものづくりができるようになると思うから。自分だけの何か新しいことに挑戦する人を応援する店でありたいですね」
【中川典彌】
1991年生まれ、熊本県熊本市出身。株式会社映gent Ro.man代表取締役、映像クリエイター。YouTube「しょうこちゃんねる」のマネージャーも務める。CREIT 取締役。
株式会社映gent Ro.man
ロマンビル(Roman Cafe&Bar)
https://instagram.com/roman.building?igshid=YmMyMTA2M2Y=
CREIT
取材・記事:清原 薫子
撮影:原史紘(一部ご本人より提供)
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