みなさん、ビールはお好きですか?

今、「ビール」とひと言でいっても、種類も個性もさまざま。しかも、よく耳にするようになった「クラフトビール」も加わり、ビールラバーにはたまらない時代の到来です。


クラフトビールって何? なんでこんなに人気なの?

ビールをこよなく愛するライターが、クラフトビールラバーにおすすめなお店と共にご紹介します。

熊本生まれ、熊本育ち! その名も「熊本クラフトビール」

パッケージもお洒落な「熊本クラフトビール」
パッケージもお洒落な「熊本クラフトビール」

クラフトビールといっても、正確な定義はなく、いわゆる、小規模で醸造にこだわったビールを指すことが多いと言います。しかも、実は、一度ブームが訪れていたことはご存知でしょうか?1994年の酒税法改定により小規模醸造所でも製造免許が取れるようになったことから、観光地などで土地の名前のついたビールが販売されるようになります。それが「地ビール」と呼ばれ、地ビールブームが訪れます。

つまり、地ビール=クラフトビールということ。「それ、飲んだことがある!」という方も多いのではないでしょうか? 残念ながら、地ビールブームは落ち着き、醸造所の数も減ってしまいましたが、ここ数年で「クラフトビール」と呼ばれるようになり、復活! 200箇所まで減っていたマイクロブルワリー(クラフトビールを醸造するブルワリー)も、2022年には550箇所以上まで増え、その勢いはとどまることを知りません。

1997年に熊本駅前で産声をあげた「熊本クラフトビール」は、逆境に立ち向かいながらも製造・販売を続け、今では熊本を代表するクラフトビールとして、各地で愛されるまでになりました。現在、東区御領に場所を移し、醸造を続ける2代目・鳥井誠人さんにお話を伺いました。

兄弟で切り盛りする「熊本クラフトビール」。2代目の鳥井誠人さん
兄弟で切り盛りする「熊本クラフトビール」。2代目の鳥井誠人さん

「熊本で珍しかったビアホールを作りたいと父がスタートしたのが、1997年のこと。熊本地ビールではなく、熊本クラフトビールと名付けたのは、今思えば、先見の明があるなぁと思いました」と誠人さん。醸造所・レストラン一体型のスタイルが主流となっていた時代に、出来立てのビールがお店で飲めるビアホールは、連日多くのお客さんで賑わったと言います。

そもそも「クラフトビール」が本来の名前で、地ビールは日本でつけられたそう
そもそも「クラフトビール」が本来の名前で、地ビールは日本でつけられたそう

現在は、卸し販売をメインに、醸造所でレギュラー4種類と限定品を製造。「私たちは、一般的なビールと、クラフトビールの間。飲みやすく、親しみやすい味わいを目指してスタートしました。人気が高まりブームのようになっていますが、クラフトビールがスタンダードな飲み物になるよう、ベーシックな味わいは守りつつ、新しいものにもチャレンジし、ブームを文化にしていきたいです」。

スタンダードな4種。左から、ヴァイツェン、ダークラガー、ペールエール、ピルスナー
スタンダードな4種。左から、ヴァイツェン、ダークラガー、ペールエール、ピルスナー
阿蘇の等高線をデザイン化したパッケージ。一番右は、限定品“メルツェン”
阿蘇の等高線をデザイン化したパッケージ。一番右は、限定品“メルツェン”

熊本地震後に発足された「九州クラフトビール協会」での活動やパッケージデザインのリニューアル、限定品「メルツェン」「ホワイトプラス」の開発など、鳥井さんの挑戦は続きます。

カウンター席とテーブル席のある店内。表にはカウンター席も用意
カウンター席とテーブル席のある店内。表にはカウンター席も用意

場所を移し、中央区下通にある「OISEAU(オワゾー)」へ。ここは、「熊本クラフトビール」を樽生ビールでいただける、弟の鳥井建伺さんのお店です。カウンターにはタップが並び、スタンダード4種類に加え、タイミングが良ければ限定品も樽生ビールでいただけるのです。

「お客様の声をダイレクトに聞くことができるので、その声を兄たちに伝え、さらなるブラッシュアップにつなげています」と建伺さん
「お客様の声をダイレクトに聞くことができるので、その声を兄たちに伝え、さらなるブラッシュアップにつなげています」と建伺さん

「駅前のビアホールが閉店し、百貨店のビアガーデンで提供していましたが、そちらも閉店してしまったので、自分たちのビールを飲んでもらえるお店を作りたいと思い、オープンしました。知名度も低いので、入り口になれたらと思っています」。

“カリーヴルスト”
“カリーヴルスト”
“ソーセージとコーンのピザ”。事前予約でコース料理も用意してくれる(4名以上)
“ソーセージとコーンのピザ”。事前予約でコース料理も用意してくれる(4名以上)

ピザやタコス、ソーセージなど、軽食がメインのバースタイルのお店ながら、取材にお邪魔した前日は、「仕事でいらっしゃったアメリカの方たちが、オープンからクローズまで、ワイワイ楽しんでくださっていました」ということ。おいしいビールがあれば、時間はあっという間というわけです。

“ダークラガー”と“ヴァイツェン”
“ダークラガー”と“ヴァイツェン”

「シンプルにビールが好き!という人たちが、難しい話は抜きに楽しんでいただきたいと思っています」。こだわりの詰まったクラフトビールだから、心して飲まないと…という気負いは不要ということです。



■ 熊本クラフトビール

問合せ先:096-389-0722

所在地:熊本市東区御領6-8-32

営業時間:9:30〜16:00

休み:日曜

URL:https://www.facebook.com/Kumamotocraftbeer/


■ OISEAU(オワゾー)

問合せ先:096-353-2110

所在地:熊本市中央区下通2-1-20ホンダビル1F

営業時間:18:00〜24:00(オーダーストップ23:30)

休み:火曜

創業37年。世界のビールが味わえる 熊本最古のビアレストラン

11時〜閉店まで休みなく営業しているので、昼夜問わず、ビールを求めてビール好きが集う
11時〜閉店まで休みなく営業しているので、昼夜問わず、ビールを求めてビール好きが集う

県民に、「熊本を代表するビアレストランは?」と尋ねると、「オーデン」と答える人が多いほどの人気ビアレストラン 。1985年創業以来、数えきれない種類の世界のビールを提供し続けている老舗店です。「それまで、昼は喫茶店、夜はバーというスタイルのお店をしていた父が、ビール好きが高じて、ビールに力を入れたお店をしよう!とオープンしました。ビールといえばドイツ。パンやジャガイモ、ソーセージ…という流れで今のスタイルになりました」と2代目・代表の村山さん。

「アメリカ留学時代にブリューパブに通い、ビール好きの人たちと過ごした経験も生きています」と村山さん
「アメリカ留学時代にブリューパブに通い、ビール好きの人たちと過ごした経験も生きています」と村山さん

1フロアで100名収容可能(現在、コロナ禍で制限中)なビアレストラン としては、熊本最古。オープンした37年前から、現在まで、店の雰囲気、スタイルを変えずに愛されてきました。開店当初は約30種類あった世界各国のビールは、現在では、樽生ビール10種類をはじめ、約70種類以上が勢揃い! 熊本にいながら、ビールで世界旅行が楽しめるというわけです。


「一般的なクラフトビールのイメージとして、小規模醸造である地ビール的なビールを想像される方が多いと思いますが、『クラフト』ビールと呼ばれているように、クラフトマンシップに溢れるこだわりを持って造られているビールがクラフトビールだと考えています。その中でも原料にこだわっていたり、時代背景や醸造に至るストーリーがあったりするなど、個性が詰まったビールを揃えています」。

樽生ビールが珍しい時代から、お店では生ビールを提供していた
樽生ビールが珍しい時代から、お店では生ビールを提供していた
ドイツ、ベルギー、チェコ、アメリカ、スコットランド…国によって異なるビール文化と一緒に楽しむと、おいしさも倍増するはず
ドイツ、ベルギー、チェコ、アメリカ、スコットランド…国によって異なるビール文化と一緒に楽しむと、おいしさも倍増するはず

それぞれの物語は、村山さんに尋ねると、こんな風に答えてくれます。

「例えば、チェコの“ピルスナー・ウルケル”は、ビールにかかわる人で知らない人がいないくらい有名で大きな会社ですが、ピルスナーラガーというスタイルを、世界で初めて生み出したブルワリーです。1842年以降、製法を進化させながらも、味わいを変えないための努力を続けていて、その方法が素晴らしく、ステンレス製の樽を用いるようになった現在でも、当初と同じく木樽での醸造も同時に行っています。これは、木樽とステンレスで味の違いが出ないようにするためのものなんです」。

まさに、クラフトマンシップ! お店を訪れたら、村山さんに、それぞれの物語を聞いてビールを楽しむのがおすすめです。

ビールによって専用のグラスで提供してくれるのも魅力
ビールによって専用のグラスで提供してくれるのも魅力

「クラフトビールは、個性がさまざまだからこそ、“選べる楽しさ”があります。国内だけでも種類が増えてきている中、うちは海外に絞って提供しています。語れるビールたちをお楽しみください」。

腸詰しフレッシュな状態から焼き上げる「生ソーセージ」など、自家製ソーセージはビールとの相性抜群
腸詰しフレッシュな状態から焼き上げる「生ソーセージ」など、自家製ソーセージはビールとの相性抜群

■ ビアレストラン オーデン

問合せ先:096-325-9230

所在地:熊本市中央区下通1-9-8銀座ビル1・2F

営業時間:11:00〜23:00(オーダーストップ22:30、金・土・祝前日は〜24:00、オーダーストップ23:30、ランチタイムは11:00〜15:00)

休み:月曜(月曜が祝日の場合は火曜休み)

URL:http://www.kumamoto-oden.com

クラフトビールに魅了され醸造まで始めた、クラフトビール・ヘンタイの店

約350種類が揃う店内。週に30〜50種類は入れ替わり、店頭に並ぶ前に売り切れるものもあるほど
約350種類が揃う店内。週に30〜50種類は入れ替わり、店頭に並ぶ前に売り切れるものもあるほど

大津町に、クラフトビール好きが通う専門店があります。それが、ビアバー「WITCH CRAFT(ウィッチ クラフト )」と「WITCH CRAFT MARKET」。「クラフトビールを提供する店が熊本に少ない頃、出会った一杯に感動しハマった結果、お店をオープンしてしまいました」と「WITCH CRAFT MARKET」オーナーの田上さん。約10年前にクラフトビールと出会い、その後、併設する「WITCH CRAFT」オーナーの今村さんをはじめビール好きが集い、夜な夜なクラフトビールを求めて飲み歩いていたそうです。

田上さん(左)と今村さん。クラフトビールを手にすると自然と笑みがこぼれるお二人
田上さん(左)と今村さん。クラフトビールを手にすると自然と笑みがこぼれるお二人

元々、大津で居酒屋やアイリッシュパブなどを展開してきた今村さんが、新たなお酒を楽しむスタイルを提供しようと、クラフトビールを樽生で楽しめるビアバー「WITCH CRAFT」がオープン。田上さんも仕入れや店番を手伝うようになります。「J R肥後大津駅」から徒歩5分という立地もあり、熊本市内からもファンが通い、クラフトビール好きの憩いの場になっていました。ところが、コロナ禍に突入…。「お客さんから、『飲みに行きたいけど行けない。クラフトビールが家でも飲めるようにして』という声が届き、買える店をしよう!ってことになったんです」と田上さん。そこで、「WITCH CRAFT MARKET」は田上さんがオーナーとなり、2本柱がスタートします。

種類の豊富さはもちろん、ジャケットの個性も魅力
種類の豊富さはもちろん、ジャケットの個性も魅力

「クラフトビールってどんな味?と聞かれると説明ができないほど、味も楽しみ方も多種多様。食前酒から〆まで楽しめるんです。ビールが飲めない人が、『私でも飲めるビールありますか?』って言ってくれるのが嬉しい。それが魅力ですね」と田上さん。

ひまわりをデザインした、ウクライナ支援のラトビアのビール
ひまわりをデザインした、ウクライナ支援のラトビアのビール

およそ、国内産2割、海外産8割のクラフトビールで構成された店内は、パッケージを眺めているだけでも楽しくなる「クラフトビールのテーマパーク」のような場所で、そのラインナップは西日本最大級というから驚きです(※2022年6月現在)。さらに田上さん、クラフトビール好きが高まりすぎて、天草のブルワリー「AMAKUSA SONAR BEER」とコラボし、オリジナルのクラフトビールも手掛けているほど。「フレイバーくらいじゃ物足りなくて、素材をドカンと感じる仕上がりを目指しています」と話す通り、例えば、デコポンのクラフトビールは、通常の10倍の素材を入れるなど、醸造家も驚くほど。

飲み方のコツを尋ねると、「敷居が高くなるので、自分の感覚で楽しんでいただくのが一番。唯一、グラスに注いでいただくことをおすすめしています」
飲み方のコツを尋ねると、「敷居が高くなるので、自分の感覚で楽しんでいただくのが一番。唯一、グラスに注いでいただくことをおすすめしています」
海外でブームになっているスムージーサワー。「AMAKUSA SONAR BEER」とのコラボ
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ビアバーでは、国内のクラフトビールの生ビールをはじめ、オリジナル商品も、 “ソーセージ春巻き”など軽食と一緒に楽しめる
ビアバーでは、国内のクラフトビールの生ビールをはじめ、オリジナル商品も、 “ソーセージ春巻き”など軽食と一緒に楽しめる

■ WITCH CRAFT/ WITCH CRAFT MARKET

問合せ先: 096-293-3910

所在地:菊池郡大津町大津1191-1

営業時間:19:00〜24:00

休み:日曜


■ WITCH CRAFT MARKET

問合せ先: 096-285-3133

所在地:菊池郡大津町大津1190-1

営業時間:12:00〜19:00

休み:なし

URL:http://witchcraftmarket.com

みなさんが口を揃えて話す通り、世界中に数え切れないほどの種類があるクラフトビール。その一杯、その一本との出会いは、まさに一期一会なのかもしれません。出会ったときに感じた味わい・香り・口あたりと共に、誰と、どんなシーンで楽しんだか…。クラフトビールの背景にある物語に、みなさんの思い出をプラスして、それぞれの物語を刻んでみるのはいかがですか?


(構成・取材・文・撮影/今村ゆきこ)

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