銭湯というと、映画のワンシーンに登場するようなノスタルジックなイメージがありますが、近頃は、日々の入浴を家で済ませる人がほとんどで、「銭湯文化」自体は少しずつ減ってきてしまいました。とはいえ、大きな湯船に手足を伸ばして入浴できる贅沢感はたまらない! 神水に出来た新店と、銭湯文化を残すために奮闘するお店、2件をご紹介します。
生まれ育った神水を元気に! 木の温もりに包まれた銭湯が仲間入り
2020年8月、中央区神水に「神水公衆浴場」がオープン。久しぶりの新店に熊本の銭湯業界はざわざわしているんです。その仕掛け人は、オーナーの黒岩さん夫妻。ご主人は、神水で生まれ育った「神水っ子」です。幼い頃に2軒ほどあった銭湯は閉業。震災以降、既存の建物が解体され住宅が増えたことで、神水地区の夜は静まりかえった住宅街に……。「ひっそりと静まった神水を見ていて寂しく思っていたんです」と黒岩さん。熊本地震で被災した自宅を再建することになり、「神水ににぎわいを取り戻したい。そして、災害時の入浴インフラに役立てたい」と自宅1階を銭湯として開放することを決意します。
構造設計一級建築士でもある黒岩さん夫妻が手掛けたこの銭湯には、建築好きがため息をつくようなこだわりが詰まっています。
2度の地震を経験したからこその強度な構造をはじめ、道後温泉と同じ工法・テラゾーを採用したレトロな雰囲気の浴室、アーチ状に組まれた屋根など、こだわりの設計。さらに、湯船に浸かりながら、高い天井に組まれた美しい白木と、八代出身のイラストレーター・yoneさんの壁画を眺める時間は興奮ものです。
「もちろん、『神の水』という地名にある銭湯なので、水は地下水100%。地下100メートルほどから汲み上げ、ガスで沸かしています。光の反射なども影響し、お湯が青く見える時があるんです」と黒岩さん。お客さんが帰った後は、家族のお風呂として利用しているため、日々の水の変化を実感しているそう。
「この場所がキッカケで、街に活気が戻るといいなと思います。そのためにも、継続することが大事。生活の一部として長く続けていくつもりです」と黒岩さん。自宅のお風呂を銭湯にして、地域の人たちにおすそ分け。こんな場所が増えると、熊本の銭湯業界もどんどん活気を取り戻しそうです。
神水公衆浴場(くわみずこうしゅうよくじょう)
所在地 熊本市中央区神水2-2-18
営業時間 16時〜20時
休み 火・木・金曜
料金 大人(中学生以上)350円、小学生100円、6歳以下無料
問い合わせ先 050-1258-1556
※駐車場は、徒歩1分の「マリオネットNo.G」駐車場を利用してください
今、見直される「銭湯」の存在価値。 日々の癒し、高齢者の見守り、 災害時の入浴インフラ確保に欠かせない銭湯
続いて紹介するのは、「熊本県公衆浴場業生活衛生同業組合」理事長でもある野村さんが営む「坪井温泉 大福湯」。
野村さんは熊本地震の際、入浴支援を行い多くの被災者の健康維持のために尽力した一人。銭湯の利用者が右肩下がりになっている現状を打破するため、銭湯文化の普及を行っています。
地震や豪雨など、各地で災害が頻発している昨今。熊本地震の際にお風呂に入れずに困ったという人も多かったように、非常時の入浴インフラの確保は大きな課題になっています。そんな時に大活躍するのが「銭湯」なのです。
「お風呂のない家がほとんどなく、利用者数の減少と後継者不足が相まって廃業する銭湯が次々と出てきています。この近所だけでも、昔は10軒ほどあったんですよ」と野村さん。高齢者にとって家にお風呂があっても、一人で用意をして、入浴し、掃除をするのはとても大変です。さらに、「銭湯に来れば誰かに会える」というふれあいの時間が、健やかな日々を過ごすためには欠かせないことなのです。
「銭湯は、災害時の入浴インフラの確保だけでなく、高齢者の見守りの役割もあるので無くしてはいけないもの。そのためにも生活の一部として銭湯を利用してもらうこと。根本的な銭湯人口の増加が大切だと考えています」と野村さんは、小学生への「浴育」や、大学生を巻き込む企画など、さまざまな仕掛けを企画したいと話されます。
約100年の歴史を持つ「大福湯」は、昭和32年に掘削し、冷泉を使用している銭湯です。大浴場には、ジェットバスやうたせ湯、Nano風呂など9種類のお風呂と、3種類のサウナがあり、冷泉をそのまま貯めた水風呂も人気という、サウナーにも注目の施設です。
「熊本県公衆浴場業生活衛生同業組合」で行っているイベント湯は、1月2日の酒風呂、5月5日のしょうぶ湯、冬至のゆず湯があるので、こちらもぜひ。平時には気づかない入浴インフラの大切さ。日頃から足を運んで、その時に備えてはいかが?
坪井温泉 大福湯(だいふくゆ)
所在地 熊本市中央区坪井2-5-28
営業時間 13時〜23時
休み 火曜
料金 大人390円、小学生150円、幼児80円、学生300円(学生証の提示が必要)
URL https://kuma1010.com/custom/399
問い合わせ先 096-343-7868
(取材・文)
熊本愛強めで熊本の魅力を発信するライター&エディター。
温泉ソムリエ熊本第一号
今村ゆきこ
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